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32 戦略の岐路

Auteur: 米糠
last update Dernière mise à jour: 2026-01-16 07:07:27

 「報告! カーネシアン軍が移動を開始! 再びケルシャ城に向かっている模様!」

 歓喜に包まれ、華やかな空気が漂っていた軍議の間。その静寂を引き裂くように、兵士の切迫した報告が響き渡った。笑みを浮かべ、目尻を下げていた四人の表情が、瞬く間に緊迫したものへと変貌する。

「こちらに向かっていると? わしの攻撃が足りなかったのか? 思ったより損害が軽微だったのか?」

 マルク公爵の太い声が部屋に響く。彼の眼光が鋭さを増し、揺らぎのない戦士の本能が甦る。握り締めた拳がわずかに震え、昂ぶる闘志を抑え込もうとしているのが伝わる。

「いや、逆ですよ。損害が大きすぎて、援軍を相手にする余裕がないのです。兵を引き、自国へ撤退するつもりでしょう」

 静かに、しかし確信に満ちた声で応じたのは、金髪碧眼の知将ケインズ。冷静な視線のまま、右手の人差し指でメガネの縁を押し上げる。硝子の奥で揺れる理知的な輝きは、すでに敵軍の意図を見透かしていた。

「いや、我が城を力攻めするつもりなのではないのか!」

 誰かが吐き捨てるように言う。二千の援軍が迫るこの状況で、敵が持久戦を選ぶ可能性は低い。残された選択肢は二つ──援軍到着前に城を強引に落とすか、そのまま素通りして帰還するか。

「そんな愚策をとれば、甚大な損害が出るのは明白。その上で城を落とせる保証もない。そもそも、我々を城から誘き出そうと画策してきたカーネシアン軍が、その兵を減らした状態で力攻めに転じるとは考えにくいでしょう」

「……言われてみればその通りだな。我が城には三千の兵がいる。五千程度の兵で攻め落とせるはずもない」

「となると、奴らはまた城の前で渡河する気か?」

 ルーク国王の問いに、ケインズは再びメガネを押し上げ、静かに地図を指し示す。その指先は迷いなく、敵の意図を読み取った確信に満ちていた。

「もし私が敵の指揮官なら、城の前を通り過ぎ……そう、この辺りで渡河します。周囲に追撃を受けても、取って返して乱戦に持ち込めるだけの広さがある。およそ一万の兵が戦えるだけの平地が左右に広がっている。これは誘因の計ですね。追撃部隊を確認し次第、反転して攻撃を仕掛ける

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